ローラーベアリング(転がり軸受)は、低摩擦を必要とする多くの回転機構に不可欠な部品です。その取り付け方法によっては、ベアリングの性能に大きな影響をおよぼす可能性があります。圧入は一般的な方法ですが、高い組み付け力や高温時における保持力の喪失、精密加工のための製造コストなどの問題を招きます。
レンコールトレランスリングは、従来の締まりばめと比べて、機械加工公差の緩和や圧入力の低減、ノイズレベルの低減を可能にするなど、ベアリングマウントならではのいくつかのうれしさを提供します。ただし、すべてのうれしさを必ず得られる訳ではなく、たとえば動的剛性は、ハウジングとベアリングの間のクリアランスへの依存度が高いため、公差緩和とあわせてノイズ低減を実現できない場合があります。したがって、私たちの経験と専門知識に基づく最適なソリューションを実現するために、お客様と緊密に連携することが大切です。
図1ー左:レンコールトレランスリングを取り付けたローラーベアリングのモーターアセンブリ。右:レンコール HDDソリューションを搭載したローラーベアリングを示す、ハードディスクドライブの分解されたアセンブリ。
レンコールトレランスリングをベアリングマウントソリューションとして使用することで、ハウジングの公差やその他精度要求の緩和が可能になります。ある例では、ハウジングの公差はIT6からIT11に緩和されました。直径22mmのハウジングの場合、これは、13μmの公差が130μmの公差になることに相当します。精密旋削加工が不要になることで、製造元はバッチサイズ100,000に対し、トレランスリングのコストを含んで約0.04ドル~0.06ドルのコスト削減となりました。バッチサイズを基準にすると、これはバッチあたり6,000ドルの直接的なコスト削減に相当します。本調査では、熱硬化性プラスチックハウジングを使用して計算を行っているため、金属ハウジングの場合はコスト削減の可能性がさらに高くなります。
接着剤による固定をレンコールトレランスリングに置き換えると、組み付けに失敗した際にハウジング全体を廃棄するのではなく、失敗した部分のみをリワークできるため、廃棄にかかる費用も削減できます。接着剤が不要になることで、そのもののコストだけでなく、接着剤の硬化にかける時間もなくなり、組み付け時間の削減にもなります。
自動車やその他の産業は、アルミニウムなどの軽量素材への移行が一大トレンドとなっています。多様な材料を使用して圧入を行うと、必要とされる作動温度範囲において熱膨張差が生じる可能性があります。アルミニウムハウジングはスチール製のベアリングよりも高速で膨張し、締まりばめの程度が小さくなるため、問題を引き起こすことになります。これにより部品の締結力が緩み、ラトル音が発生する可能性があります。
レンコールトレランスリングの波は弾性域で作用します。高温時、ベアリングの保持力が圧入と比べてより高くなり(図2)、熱膨張による問題を懸念するお客様に対し、信頼を提供します。
図2ーアルミニウムハウジングに取り付けられたスチールローラーベアリングの抜け力計算値の比較、異種材締結によって熱膨張差が発生している。この結果では、レンコールトレランスリングと圧入の2つの締結方法を比較しています。レンコールのほうが、温度上昇時も一貫した高い保持力を示しています。
システムに過度のノイズレベルやその他NVHに関する問題がある場合、レンコールトレランスリングを使用してノイズレベル全体を低減することができます。当社のソリューションは、動剛性を調整可能なため、問題となる周波数を遮断することができます。図3 は、レンコールトレランスリングのベアリングマウントでシステムの音圧レベルを4dB(A)低減した電動モーターの例になります。
図3ー電動モーターでレンコールトレランスリングを装着した状態と装着していない状態での音圧レベル比較。それぞれの設定で5回ずつ試験を行い、平均を取りました。モーターは1000 RPMで試験されています。レンコールソリューションを使用することにより、4 dB(A)の低減を実現しました。
品質の改善
回転機構の場合、品質を評価する方法のひとつとしては360度回転させたときのトルクの安定性が挙げられます。不均一な外圧が存在する場合、ベアリングの外輪の変形により悪影響を受ける可能性があります。これは、ステアリングコラムまたはモーター駆動システムの一次振動モードにおいて、滑らかさを各ステアリングフィールとして現れる可能性があります。
レンコールトレランスリングは、不均一な外力をベアリングの外輪に分散させることによって、これを回避します。 図4は、ベアリング外輪の変形に関する有限要素解析(FEA)を示しています。このアプリケーションでは、ハウジングの肉厚はベアリングの周囲で不均一となっています。これは、剛性が周方向で一定でないことを意味しており、結果として不均一な圧力負荷を生じさせます。この解析では、レンコールソリューションがベアリングに荷重を分散させていることを示しており、つまり、機構の回転時に安定したトルクを提供できることを意味します。
図4ー圧入(左)とレンコールソリューション(右)で、不均一な外圧によるベアリングの外輪の変形に関するFEAの結果を示しています。レンコールソリューションのほうが、ベアリング外輪の周りにはるかに均一な圧力をもたらします。