2021年 09月 15日
ベアリングの技術はシンプルなホイールベアリングから、近年のノルグライドのようなモジュール式すべり軸受技術まで、約6,000年の歴史の中で長い道のりを歩んできました。ここではサンゴバンのノルグライドの歴史を振り返ってみます。
ベアリングの歴史は、約6,000年前に車輪が使われ始めたことから始まりました(それ以前は重い物は「ころ」と呼ばれる丸太に載せて転がして運んでいました)。その車輪はそれ自体が歴史的な進歩でしたが、実用的な輸送手段になるためには、荷車に固定する方法が必要でした
すべり軸受は重量物の輸送を可能にするために導入(最もシンプルで最古のすべり軸受は単なる丸い穴に軸を通しただけの状態)され、その後車輪を現在のような必須技術にまで発達させました。すべり軸受に求められる最も基本的な役割には以下のようなものがあります。
当時のすべり軸受はこれらの要件をすべて満たしていましたが、より効率的に目的を達成するために材料は変わり続けています。何千年も前に開発されたにもかかわらず、その基本的な技術はオリジナルの設計と驚くほど似通っています。現代のベアリングにおいても、期待される性能は増えてきているものの、当時のベアリングと同じ役割を果たさなければならない点では変わりません。
従来のすべり軸受の設計における2つの大きな課題。
この2つの問題を解決するために動物および植物油脂などが潤滑剤として使用されましたが、それでもすべり軸受は頻繁に交換しなければならない高摩耗部品でした。歴史を振り返ると、これらの主要部品の耐摩耗性や低摩擦性を向上させる発明がなされていることがわかります。
サンゴバンのノルグライドベアリングの歴史は、Max Alfred Pampusから始まります。Alfredは1919年にPampus社を設立しました。1948年にはPTFEの加工に進出し、PTFE材料の輸入を開始しました。
1966年、同社はSchiefbahnに製造工場を建設しました。この近代的で高い生産能力を持つ工場により、ヨーロッパで最も先進的なフッ素樹脂製品の製造が可能になりました。
PTFE素材加工技術の革新的な向上により、会社はグローバルにビジネス展開を行っていきました。そのために、Schiefbahnに新しい管理棟を建設し、グローバルコミュニケーションの活性化と、各産業界との連携を強化しました。
Pampusグループは、1982年にNorton Company USAのPerformance Plastics事業部門に引き継がれました。Norton Company USAの下で8年間リーダーシップを発揮した後、1990年にサンゴバンが会社を引き継ぐことになりました。2001年にSaint-Gobain Performance Plastics Pampus GmbHに社名を変更し、業界の課題を克服する革新的な製品を次々と生み出していくこととなりました。
サンゴバンのPTFEをはじめとする材料のイノベーションは、世界中のさまざまな産業に影響を与えています。これらのイノベーションは自動車産業に大きな影響を与え、自転車、バイク、ロボット、オートメーション、工業などの幅広い分野でも活躍しています。
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)は、1938年に偶然発見された合成ポリマーです。このフッ素系ポリマーは、調理器具のコーティング剤として近年普及しましたが、もともとPTFEという軟質プラスチックは摩耗しやすく、クリープを起こしやすいという特徴があるため、当時のPTFEの用途は限られていました。これを克服するためにさまざまな試行錯誤が繰り返され、1960年代後半、チェコスロバキアの研究機関であるSVÚMは、PTFEフォイルを金属メッシュで補強した「METALOPLAST®」と名付けられた材料を開発しました。
「鉄のカーテン」の影響で東欧と西欧の意思疎通が難しい時代だった当時、Pampus社のマネージングダイレクターであったFred Harig氏は、この技術の重要性をいち早く見抜き、材料とMETALOPLAST®の名称に関する権利を取得しました。
METALOPLAST®を市場に投入する前に、信頼性が高く高性能な素材とするためにいくつかの改良が必要でした。その結果、1972年、Fred Harig氏はこれらの改良を加えて、自動車産業において革命的なベアリング材料を生み出し、特許を申請しました。
この革新的なポリマーは、1943年に初めてベアリングの構造で実験されました。PTFEは非粘着性の材料として知られているため、PTFEと金属の適切な接合は課題でした。1951年、グレイシャー社は多孔質ブロンズの層を持つ材料の特許を取得しました。この材料では、多孔質ブロンズの隙間にPTFEが満たされています。これは、PTFEを金属の表面に機械的に接合するための大きな前進でした。
同社はこのプロセスをさらに改良し、1956年にDU材料を開発、発表しました。この金属のバックメタルを持ったベアリングはPTFE技術をベースにしたもので、この種のものとしては初めてのものでした。その後、1969年から1971年にかけて、材料の硬いDU材料と、柔らかいPTFEフォイルの間のギャップを埋めるために、金属メッシュで補強された柔軟性のあるメタロプラスト(現在のノルグライド MP)が開発され、特許を取得しました。1987年には、革新的なPTFEと金属の接合技術に基づいた初の積層PTFEベアリング(ノルグライド M / T / SM)の特許が取得されました。
ノルグライドは、重金属である鉛や6価クロムを使用しないように設計された、環境に優しいベアリング技術のパイオニアです。1995年には、自動車用ベアリングの環境負荷低減に向けた取り組みとして、DUに代わる最初の鉛フリー材料が開発されました。
また、PTFEの製造工程で使用されていたPFOA(ペルフルオロオクタン酸)の使用を中止したことも、環境に配慮した取り組みの一例です。2009年にPFOAが環境負荷物質に指定された際には、環境への影響を最小限に抑えるためにすべての工程を厳密に調査し素早く対応しました。
メタロプラストが自動車業界で使用されることとなったきっかけの一つは、フォルクスワーゲンのドアヒンジの開発でした。この技術により、ドアヒンジが抱えていた慢性的な問題を解決し、長寿命で信頼性の高いヒンジ設計が可能となりました。
当時、ユニークなビートルのデザインは非常に人気がありましたが、ドア下がりの問題に悩まされていました。これは徐々にドアの位置が下がってきてしまうことを意味し、頻繁なメンテナンスが問題となっていました。目指したのは、日常的な注油や修理を必要とせず、自動車の寿命が尽きるまでドア下がりを抑制し、安定した摺動性能を維持することでノイズの発生を起こさせないヒンジを作ることでした。
この革新的なサイドドアヒンジに対して様々な議論と実験が重ねられ、メタロプラストが最良のソリューションであると認められました。後にこの革新的なヒンジは、フォルクスワーゲン ゴルフIに搭載されることとなりました。
サンゴバンは、1990年にノルグライドのブランド名として正式に発売されるまで、メタロプラストは改良を重ねてきました。
ノルグライド Tとノルグライド Mから始まった製品は年を追うごとにさらに品揃えを拡大していき、現在では以下の7種類の材料構成、100種類を超える材料の中から、お客様の用途や技術要求事項に合った最適なソリューションを提案しています。
ここでは、高品質のすべり軸受を探す際に選択可能な、一般的なタイプを紹介します。
それぞれのタイプのベアリングには、PTFEなどの摩擦を低減するポリマーと、耐久性のある金属製のバックメタルや中間層が使用されています。ポリマーとバックメタルは、お客様の特定用途の要件を満たすことができるように変更することができます。コンパウンドには、芳香族ポリエステル、カーボン、グラファイト、ガラス、その他のフィラーが含まれます。
金属製のバックメタルには、スチール、ステンレススチール、アルミニウム、ブロンズクラッド鋼、アルミニウムクラッド鋼などがあります。これらの最適な組み合わせを選択することは、お客様の製品のパフォーマンスに大きく影響します。
これらのスタイルに加えて、数多くの形状を選択することができます。用途やクリアランスなどを考慮して、最適な形状をお選びください。
ベアリングの形状は、用途や求められる性能によって決定されます。ノルグライドベアリングはどのような形状であってもポリマーとスチールの基本的な複層構造を採用しています。特定の用途におけるベアリングの開発には、材料や形状の他にもはめ合い部品とのクリアランス設定など、様々な点を考慮する必要があります。
ノルグライドは最大で0.30mmもの厚いPTFE層を持つベアリングです。ガタつきを無くすために締まりばめで使用する場合や組付け時にミスアライメントが発生してしまう場合において、厚いPTFE層がシャフトになじみ、低く安定した摩擦係数を維持することができます。もしハウジングとシャフトの公差の関係で隙間ばめとなってしまう場合においても、厚いPTFE層が振動を吸収しノイズの発生を抑制します。
また、PTFEやバックメタル、中間層、厚みの種類と組み合わせを幅広い選択肢の中から選択できることも大きな利点です。ガタツつきを無くしたい。大きなはめ合い公差やミスアライメントを吸収したい。低摩擦にしたい。振動・ノイズの問題を解決したい。長寿命化したい。錆の問題を解決したい等のお客様が直面している課題と用途に合わせてカスタマイズされたソリューションを提案します。
すべり軸受の歴史や最新の技術については、お気軽にお問い合わせください。サンゴバンのエンジニアリングチームが、お客様の課題を克服するためのカスタマイズされたソリューションを提案します。お問い合わせは、オンラインフォームにご記入いただくか、makingabigdifference@saint-gobain.com までご連絡ください。