自動車技術が発展するにつれ、シートへの快適機能や調整機構が多く搭載されるようになりました。また、多彩なシートアレンジメントが考案され、シート自体も複雑な動きをして折り畳みや格納されるようになるなど、その構造も非常に複雑なものとなってきました。今日では、自動車のインテリアデザインや快適性は、ドライバーや乗員の満足度に重要な役割を果たし、自動車の購入を検討するうえで非常に重要な要素となっています。
技術的には、シートに使用される金属や構造用プラスチックは、より薄く、より軽くなっているにもかかわらず、要求される荷重は増加しています。シートはユーザーが車を使用する際に最も近づき、最も長い時間を過ごす場所であるため、自動車メーカーにとってシートは重要な構成部品です。また、シートの快適性はユーザーの車に対する印象に大きく影響を与えるため、シートフレームやすべての調整機構の性能を向上し、NVHの懸念を最小限に抑えるなど、ドライビングエクスペリエンスの向上が必要となります。
また、二酸化炭素排出量の削減や持続可能性の目標達成の推進も考慮すべき点です。このため、自動車のエンジンや出力に注目が集まっています。近年のハイブリッドシステムや電気自動車の普及により、自動車の静粛性は格段に向上しています。内燃機関によってこれまで隠されていたノイズを排除することが強く求められています。
シートのサブシステムや構造の設計品質は、シートフレームとその性能の多くの側面を向上させます。NVH、ガタつき、公差、ミスアライメント、作動トルク、耐久性、フィット感、導電性、コストなどの問題は、ノルグライドベアリングを使用することで解決することができ、ユーザーにとっての全体的な快適さと品質感、満足度の向上をもたらします。
複数のドライバーが乗るシェアードカー、車の多機能化、自動運転への対応など、シートの調整頻度が増えていることも注目すべき点です。ドライバーや同乗者は、手動または電動でシートを調整する際に静かでスムーズな操作とフィーリングを期待しており、そのフィーリングは車両の寿命が尽きるまで一貫している必要があります。
また、座り心地もシートフレームや調整機構の重要な設計要素であるべきです。シートは、タイヤから伝わってくるドライバーや乗員への振動の伝達を最小限に抑える必要があります。可動部の軸受けのフィッティングが不適当な場合は、快適性のレベルを著しく低下させ、車両全体の評価を低下させる要因となります。
シートフレームや調整機構では、構成部品の公差やミスアライメントもシートの快適性に影響を与える重要な要素となっています。もし、はめ合いがきつくなったり、ミスアライメント量が大きくなったりすると、操作力が高くなってしまいます。逆にはめ合いが緩すぎると、ガタつきが発生しNVHの原因となります。しかしながら、製造公差は無くすことができません。公差を小さくすることはできますが、コストアップの原因となってしまいます。そのため、構成部品の公差やミスアライメントが発生してしまうことを前提として、それらを適切にコントロールできる部品を選択することが必要です。
ノルグライドベアリングは、1992年からシートの各種調整機構に広く使用されています。
ノルグライドの特徴である非常に厚く均一なPTFE層は、締まりばめ条件での使用を可能としながらも、低く一貫したトルクを発生させます。また、厚いPTFE層は優れた減衰性能を持ち、振動やノイズの低減に貢献します。それに加え、シート設計者は、寿命まで安定した低い力で容易に調整でき、公差もミスアライメントも吸収できる耐ねじれ性の高いシートフレームを設計することができるようになりました。
サンゴバンは、市場のトレンドや技術革新に歩調を合わせて材料を開発してきており、提案材料の幅は100種類以上にものぼります。サンゴバンが開発した革新的な材料を使用することで、カーメーカーやシートメーカーが抱える開発・組み立ての問題を解決します。当社のエンジニアがお客様の課題を正確に理解し、最も適した材料と形状を提案します。
当社のノルグライドベアリングは、システムの偏った荷重をPTFEの厚い層によって均等に支える荷重に変換することができます。有限要素解析によれば、図1に示すように、ノルグライドベアリングは射出成形されたプラスチックベアリングよりもはるかに優れた偏荷重分散効果を発揮することが分かっています。
図1:プラスチックベアリングとノルグライドベアリングの偏荷重分散効果を示す有限要素解析結果
ノルグライドベアリングは、図2のようにハウジングとシャフト(ピン、ネジ、クロスチューブ)の間に配置し、簡単に取り付けることができます。
図2:シャフトを取り付ける前に、ハウジングに挿入されたノルグライドベアリングを示す。
PTFE(フッ素樹脂)は他の素材と比較して、摩擦係数が最も低い素材の一つです。PTFEの非常に細かな粒子は、わずかにシャフト上に移行するように設計されており、組付後は寿命を通じて、軸受け部の滑らかさと一貫した低いフィーリングを可能にします。
図3:青銅焼結層とPTFE、バックメタルを組み合わせた他社製品(DUタイプ)と、厚く均一なPTFE層とバックメタルを組み合わせたノルグライドベアリングの摩擦係数と軸受材料のラジアル摩耗深さの関係を示す。ノルグライドベアリングの摩擦係数は、他社品と比較して摩耗による摩擦係数への影響が小さいことがわかる。
シート高さ調整機構には多数の軸受け部がありますが、軸受け部には「ガタつきの低減」と、「トルクの低減と安定化」はトレードオフの関係にあります。ガタつきを減らすためには軸受け部のクリアランスを小さくする必要がありますが、それはトルクの上昇につながってしまいます。逆にトルクを下げようとするためには、軸受け部のクリアランスを広げる必要があり、シート剛性の低下やNVHの問題に直結してしまいます。
しかし、ノルグライドベアリングは、厚く均一なPTFE層がはめ合い部品の公差を吸収することで、このトレードオフの関係を解消し、他社製品と比較してガタつきが無く、かつ低く安定したシートアッセンブリ性能を実現します。
図4:厚く均一なPTFE層を持つノルグライドベアリングは、他社品と比較して幅広い締め代(クリアランス範囲)において低く安定した性能を発揮します。PTFE層は、ハウジングとシャフトの製造公差のばらつきを吸収することができ、一貫して低く滑らかな調整フィーリングを確保することができます。
シートフレームに関わらず、ユニットの設計・製造において製造公差は常に付きまとう課題です。軸受け部における公差の積み上げの最悪のケースは、ハウジングの内径が最も小さく、シャフトの外径が最も大きいなど、公差範囲の両極端である場合に起こります。クリアランスが小さすぎる場合は過剰なトルクを発生させ、逆にクリアランスが大きすぎる場合は、ガタツキとノイズの発生原因となる可能性があります。
ノルグライドベアリングをサイジングと組み合わせて使用することで、公差に関する問題を解消することもできます。サイジングとは、図5に示すように、ベアリング内径よりも少し大きく設計されたサイジングピンを用いて、ベアリング材料を狙いの内径まで塑性変形させる方法です。これにより、ハウジングの製造公差(バラつき)をベアリングの塑性変形代によって補正(キャンセル)し、常にベアリング内径が狙いの値となるように調整することができるのです。サイジングを行うことで、軸受け部のトルクを非常に狭い範囲でコントロールすることができ、公差の積み上げによるトルクやガタつき、NVHの問題も解消することができます。
図5:サイジングピンの特徴は、ベアリング摺動層の弾性・塑性挙動を利用することから、狙いの内径よりも少し大きな外径を持っています。このピンをベアリングに挿入することで、ノルグライドの内径を狙いの寸法に塑性変形させることができます。サンゴバンのエンジニアがお客様の条件に合わせてピンの設計を行うことで、効果的なサイジングを実施することができます。
このサイジング加工は、ノルグライド SM、M、MP、SALCのような、金属メッシュやストレッチドメタルを持つ材料で特に有効です。
図6:バックメタル、中間層、PTFE層を持つ、ノルグライド独自の積層構造。
この柔軟な中間層がベアリング材料の塑性変形を可能にすることで、サイジング加工を可能にします。図8は、ノルグライドSMにおけるサイジングのピン径とそのサイジング効果を示しています。サイジング代には限界がありますので、詳細についてはサンゴバンのエンジニアまでお問い合わせください。お客様に合わせた最適なソリューションを提案します。
図7 ノルグライドSM(板厚 = 1 mm、高さ = 17 mm、内径 = 12 mm)のサイジングピンとベアリング内径のオーバーラップ量に対するベアリング板厚の減少量。サイジングピン径は0.05mm毎で実施、斜線部は平均値からの標準偏差の範囲を示しています。
公差はラジアル(クリアランス)方向だけではなく、アキシャル(フランジ面側)方向にもあり、組付け時のガタつき問題に頭を悩ませることがあります。この場合、構成部品の公差を小さくするためにコストがかかるといった問題に直面します。ノルグライドのステップフランジベアリングは、この問題を解決するために開発されました。このソリューションは、アキシャル方向の公差を吸収できるステップが付いたフランジを備えているため、部品や製造コストを低減することが可能です。またガタつきを排除することで、NVH低減にも貢献することができます。
ノルグライドの組付け方に関する詳しい情報はこちらをご覧ください。
図8:アキシャル方向公差を吸収するステップが付いたフランジと、ハウジングへ挿入した際の写真。
実際にユーザーの目には触れることはありませんが、特に海外のシートフレームでは見た目や腐食防止のために一部の部品、または全体を塗装します。もし、ハウジングにベアリングが取り付けられた状態で電着塗装を施した場合、塗料が摺動層を覆ってしまい、摺動性能に悪影響が出てしまいます。シャフトやその周りの構成部品まで組み付いた状態で電着塗装を施す場合、ペイントブリッジと呼ばれるハウジング、ベアリングの端面、シャフト全体を覆う塗膜が形成されます。このペイントブリッジは、シートが稼働した際(すべり軸受が機能した際)に、摺動界面で周りの塗膜を巻き込んで塗膜が壊れ、ハウジングやシャフトの一部の素地が露出することで腐食の原因となってしまいます。そのため、サンゴバンでは非導電性ベアリング材料と導電性ベアリング材料の両方を供給することが可能です。
ノルグライドのLRコンパウンドやSBコンパウンドは、非導電性のPTFEコンパウンドで構成されており、電着塗装時に塗料が摺動層に付着することを防止できます。これに加え、ノルグライドベアリングに導電性ノッチを設けることで、ベアリングの接触部に導電性を持たせることができます。このノッチは、下図のようにブシュの製造時に加工されます。鋼材側から圧痕をつけ、内径からPTFEを削り取ります。これはハウジングからブッシュ、およびシャフトを通して伝導性を確保する鋼鉄表面を残すというメカニズムです。この導電性ノッチにより、非導電性の摺動層を持つすべり軸受を使用しても、塗装時にユニット全体の未塗装不良を起こすことを防ぎます。また、これにより、ハウジング、ベアリングの端面、シャフト全体を覆うペイントブリッジの形成を防ぎ、最終的な塗装品質の向上に貢献します。
図9:
ノイズはエンドユーザーにとって非常に不快なものですが、小さな可動部品が多数あるアプリケーションでは避けることが困難であるという事実があります。この問題が特にクローズアップされている理由は、ハイブリッドシステムや電気自動車への移行です。自動車の静粛性が格段に向上したことに加え、コックピットの遮音性が高まったため、車室内から発生したどんな小さな音でも聞こえてしまう可能性があります。そのため、寿命が来るまで騒音を最小限に抑える、あるいは全く発生しないようなユニット設計することが課題となっています。
サンゴバンは、この重要性を認識しています。シートフレームの軸受けは、ハウジング、シャフト、ベアリングの3つの部品で構成されています。それぞれの部品は、個別の公差で製造されます。この公差を組み合わせると、毎回異なるクリアランスになる可能性があり、フィット感とクリアランスに大きなばらつきが生じる可能性があります。軸受け部のクリアランスが大きすぎると、ユニットが不安定になり、ガタつきや振動、ノイズが発生する可能性があります。これは、車両を運転する際のユーザーエクスペリエンスに悪影響を及ぼすだけでなく、軸受け部の過剰な摩耗やダメージにより、時間の経過とともにシートの寿命が短くなる危険性もあります。軸受け部のクリアランスが小さすぎたり、ミスアライメントがあると、高シートトルクが発生する可能性があります。ノルグライドの厚く均一なPTFE層の弾性と正しい設計により、構成部品の厳しい公差精度要求から解放され、コストを削減し、滑らかで低く安定した摩擦を生み出し、最終的にボデーに組付けられた状態においても、非常に乗り心地の良いシートが完成するのです。
サンゴバンの試験設備は、製品の設計・開発をサポートします。英国ブリストルには、7m×7mの半無響音室があり、シート全体や個々の部品について、お客様の試験条件を模倣することができます。
図10:半無響室でシートのNVH試験を行う様子
部品の製造公差の関係上、シートの左右のアライメントがずれてしまう可能性が常にあります。また、シートをボデーに取り付ける際にも、取り付け位置のX-Y-Z方向の公差によってシートアライメントがズレたり、シート自体が捩れてしまったりすることがあります。その場合、高いシートトルクが発生するため、ノイズの問題が発生したり、調整機構にも品質のばらつきが発生したりと、シートの乗り心地にも影響を与えてしまいます。
ノルグライドベアリングの材料特性、特に柔軟な厚いPTFE層は、部品の公差を小さくしたり、組み立て精度の向上、オフラインでの追加工程を行うことなくこのミスアライメントを吸収することができます。これにより、組み立て工程を容易にすることはもちろんのこと、最終的にシートがボデーに組み付いた時にもトルクやノイズの問題を解消します。
スプリングライドは、ノルグライド ベアリングのPTFE(フッ素樹脂)コンパウンド技術とレンコール トレランスリングのばね技術を融合した、ユニークな高機能摺動材料です。ばねの公差・ミスアライメント吸収機能と、PTFEの高摺動性能が、「一貫した低フリクション」と「ガタつき・ノイズの低減」を両立します。
スプリングライドはすべり軸受に分須利される製品で、そのユニークな特性により、より大きな公差やミスアライメントを吸収し、驚くほどの低く安定した摩擦力を創りさすことができます。すべてのスプリングライド スプリング エナジャイズドベアリングは、お客様の開発プロジェクトの特定のトルクや摩擦レベルに合わせてカスタム設計されており、これには、はめあい部品の公差やシステムの組み立て時に生じるミスアライメントや公差も考慮されています。サンゴバンでは様々な試験設備を有しており、お客様の開発業務をサポートします。
スプリングライドはノルグライドと同様に、直線方向と回転方向の両方のモーメントで使用することができます。
ノルグライドについて詳しく知りたいお客様は、お気軽にお問い合わせください。サンゴバンのエンジニアリングチームが、お客様の課題を克服するためのカスタマイズされたソリューションを提案します。
お問い合わせは、オンラインフォームにご記入いただくか、makingabigdifference@saint-gobain.comまでご連絡ください。